大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和44年(ヨ)65号 判決

申請人

前田重幸

代理人

松本健男

樺島正法

被申請人

日本電信電話公社

指定代理人

片山邦宏

外六名

主文

一、本案判決確定に至るまで申請人が被申請人の職員であることの地位を仮りに定める。

二、被申請人は申請人に対し昭和四四年四月以降本案判決確定に至るまで毎月五日限り金三〇、五八七円を仮りに支払え。

三、申請人のその余の申請を却下する。

四、訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、申請人、被申請人間の身分関係(申請理由一)及び、申請人が昭和四四年二月一八日徳島地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により禁錮六月執行猶予二年の判決の言渡を受け、右判決がその頃確定したため、被申請人は同年三月五日直ちに申請人をいわゆる分限により免職処分に付したこと(申請理由二)、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、右免職処分の効力について検討する。

(一)、人事権濫用の主張について。

(1)  被申請人の右免職処分の根拠が①日本電信電話公社法第三一条(降職及び免職)の「職務に必要な適格性を欠くときは、職員はその意に反して降職、免職される」趣旨を受けた同公社の②就業規則(疎甲第七号証)第五五条第一項すなわち「職員は、次の各号の一に該当する場合は、その意に反して免職されることがある。(1)勤務成績がよくないとき(2)第五二条第一項第一号の規定に該当して休職にされた場合において、同条第二項の休職の期間を経過してもなおその故障が消滅しないとき(3)その他心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えないとき(4)禁治産者または準禁治産者となつたとき(5)禁錮以上の刑に処せられたとき(6)その他その職務に必要な適格性を欠くとき(7)業務量の減少その他経営上やむを得ない理由が生じたとき」との規定、また法第三一条によれば「職員は、左の各号の一に該当する場合を除き、その意に反して、降職され、又は免職されることがない。一、勤務成績がよくないとき。二、心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないとき、三、その他その職務に必要な適格性を欠くとき。四、業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じたとき。」との規定並びに同公社のいわゆる③一四九号通達(電職一四九号昭和三二年四月八日付本社職員局長から社内一般長宛「職員の休職、免職、降職および失職について」と題する通達)すなわち「公社職員が禁錮以上の刑に処せられたときは、公社より排除(懲戒免職、意に反する免職または辞職の承認)されるものとする。ただし、特別の事情により引き続き勤務させることが必要であると認めた場合において別に定める様式により総裁の承認を受けたときはこの限りでない」との内規に基くものであること、及び本件の場合、処分権者四国電気通信局長は同局の副局長、監査部長、職員部長、秘書課長の意見も徴した上前記通達にある但書所定の例外措置すなわち総裁による身分存続の承認(いわゆる特別詮議)を上申しないことに決し、原則に従い分限免職処分に踏み切つたものであること、なお、被申請人公社では身分存続が認められた場合はあらためて懲戒処分の要否を検討し、必要の場合はこれを課するのを通例としている、以上の事実は疎明不要の法規に関するかまたは証人崎岡吉敏の証言により真正に成立したと認める疎乙第四〇号証ならびに同証人の証言によつて疎明される。

従つて、今回の分限処分はこの限りにおいては何ら外形上、形式上違法のかどは見当らないこと明白である。

(2)  しかし、およそ職員の身分関係を一方的に排除する免職処分は、当該特別権力関係(公社職員の身分関係もこの範疇に属する)内にあつてはそれが分限、懲戒のいずれによるものであつてもいわば極刑に等しい結果を生ずるものであり、公社の終身を原則とする雇傭の実情(公知の事実)、並びに身分上の処分は一般に謙抑主義の妥当する場合が多い点等に照らすと、例えそれが形式上何らの違法がなくとも、実質的にその適用または運用が著しく相当性を欠き公正を失する場合はこれを権限逸脱の違法ありといわねばならない。

そこで、以上の見地から本件処分の相当性について検討する。

まず、申請人の起した交通事故の体様、前後の事情及び申請人の日頃の職場における勤務情況等についてみるに、〈証拠〉を綜合すると次の事実が疎明せられる。すなわち、

(イ) 申請人が有罪判決を受けた交通事故(その構成要件事実)は被申請人主張のとおりである。すなわち、申請人は(第一)昭和四三年九月二五日午後九時五分頃、軽四輪貨物自動車(六徳く四四五〇号)を運転し徳島市徳島町城の内の国道一九二号線立体交差点を時速約四〇キロメートルで東から西に向け進行した際、およそ自動車運転者たるものは常に進路前方を注視し、もし先行する車両がある場合にはその動静を確実に把握しかつ同車が急に停止したときでもこれに追突するのを避けることができるため必要な車間距離を保持しつつ追従し、もつて前方不注視ならびに車間距離不保持に基く追突事故発生を未然に回復すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、先行する藤川重明(三六才)運転の営業用普通乗用自動車(富田タクシーの車)があるのを認めながら、それとの車間距離を一〇メートル位しかおかないで追従したばかりか、もの思いにふけつていたため前方注視が不完全となり、同車が水溜りを越そうとして減速したのを約三、八メートルに迫つて漸く気付き、急停車するも及ばず、自車前部を右藤川の車両後部に追突させ、この衝撃により同人に対し約三ケ月の入院加療を要する頸部・腰部各挫傷の傷害を負わせ、さらに(第二)呼気一リットルにつき〇、二五ミリグラム以上のアルコール分を身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、前記日時・場所において前記軽四輪貨物自動車を運転したものである。

しかして、右事故の前後の情況を更に敷衍すると、申請人は午後五時いつものとおり勤務を終え午後六時頃同僚和泉本正とともに徳島市内の料理屋で約一時間半の間に日本酒約三ないし四合飲んだ後同人と別れ、午後八時頃バスで同市沖ノ洲の自宅へ帰りテレビを観ていたところ、折しも徳島地方には集中豪雨があつたため、被申請会社徳島電報電話局運用課に勤務する妻富士子から勤務先まで迎えに来てほしい旨電話連絡を受けた(午後九時頃)。申請人は当時まで酒の影響も残つていたが、飲酒後時間もかなり経過していたので、運転には殆んど支障ないものと考え、妻を迎えるため軽四輪貨物自動車を運転して自宅を出発し豪雨の中を同市西大工町所在徳島電報電話局に向かつた。本件追突事故はその途中で発生した。申請人は直ちに停車するとともに事後措置をとつた。また、その後昭和四四年二月一日には被害者との間で正式の示談が成立し、申請人は手持ちの金や友人の援助金などをもとにして、被害者に対し治療費全額、休業補償費として金二四九、二〇〇円、慰藉料として金一九二、〇〇〇円、営業補償費として金六〇、〇〇〇円等を支払い、被害者も申請人の誠意を認めて今回の事故責任について宥恕している。

本件追突事故については特に新聞、テレビ等による報道はされなかつた。

(ロ) 申請人は昭和三三年四月公社に採用され、四国電気通信学園における約三ケ月間にわたる訓練を経て以て以来本件免職処分を受けるまで徳島電報電話局施設部第一線路宅内課において現場要員あるいはデスク要員として勤務してきたものであるが、同人の勤務成績・態度はどちらかと言えば無口で真面目、後記のとおり組合活動には極めて熱心であつたから特に積極性は見当らないがやるべきことは一応やつていたし、服務規律は守り、また専門器機に対する知識と技術は十分習得しており、他の職員に比べとりたてて優秀というわけにはいかないが、特に目立つ見劣りもなかつた。

(ハ) なお、申請人は生来の生真面目さがかわれたのか、昭和三四年には全電通徳島電話局分会(徳島県支部組合員約一、八〇〇名中、約八〇〇名をようする大分会)の執行委員に選任されたのをはじめとして書記長、副分会長などを経て昭和四〇年には分会長にも選任され、次いて昭和四二、四三年(なお、四三年右分会は全電通徳島電報電話局分会に統合された)にも引き続いて分会長に選任され、昭和四三年九月二六日(事故の翌日)開催された統合組合大会においても、事故を理由に辞退しようとしたにもかかわらず、再び分会長に選任されたものであり、これまでも終始組合活動には熱心であつた(もつとも、これは起訴後昭和四四年一月一〇日辞任した)。

以上の各事実が疎明され、他に右事実を左右するに足る疎明はない。

(3)  次に、当時における被申請人公社の職員の起した交通事故に対する処分例をみる。

(イ) 申請人の属する四国電気通信局管内において、その頃発生した交通事故が四例あること、及びその事故の骨子、公社の処分結果の日時等は当事者間に争いがなく(別紙(一)参照)、そのうち、宿毛局、小松島局の二例は罰金刑に処せられた分であるから一応論外とし(この点は双方にも異論はない)、禁錮刑に処せられた脇町局と高知局の職員の二つの事例をみるに、〈証拠〉によれば、次の事実が疎明される。すなわち、

高知電報電話局の職員(昭和六年五月一八日生)は、当時同局施設部第一線宅内課に所属していたが、昭和四二年一一月二九日午後八時三七分頃飲酒のうえ時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で普通乗用車を運転して高知市内を進行中、歩行者に自車を衝突させ、同人に加療約八ケ月間を要する頭蓋骨骨折などの傷害を負わせた右事故は、右職員が同一方向に歩いていた被害者を約五七メートル前方に認めて進行するうち、同人との距離約二〇メートルに接近して同人が自車の進路上に進入して来るように感じて危険を感じ急制動しようとしたが、酒酔いのため意に任せず急制動することもできなかつたことにより生じたものである。そして、同人の受けた刑事裁判は業務上過失傷害および道路交通法第六五条、第一一七条の二第一号違反の罪により禁錮一〇月執行猶予三年の判決であつた。ところが、公社では本件については前記一四九号通達の但書に基づき特別詮議の上申をし、総裁により身分の存続が承認され、その結果四国電気通信局長は同年一二月二三日右職員を規則第五九条第七号の「職員しての品位を傷つけ、または信用を失なうような非行があつたとき」に該当するとして減給一月の懲戒処分に付するにとどまつた。右特別詮議をした特別の事情は、要するに、右事故は個人の車両を勤務時間外に運転中惹起した事故であり公社業務と直接関係がないこと、右事故の原因は、右職員の飲酒運転によるものであるが、被害者も当時相当酒に酔い突然道路中央寄りへ進入したもので、被害者側にもかなりの過失があると考られること、治療期間については、被害者が故意に長引かせたと考えられるふしがあること、右職員は、人身事故を惹起したことを深く悔い、被害者の入院中の看護などに最善を尽くし、被害者に対し治療費、慰藉料など合計金一三〇万円余を支払い示談も了して改悛の情顕著であること、報道機関による報道は地方紙の夕刊の片すみに小さな記事として掲載されたにすぎず公社の体面を著しくけがしたことになるとは考えられないこと、右職員の勤務態度は積極的で責任感も強い上、年少者をもよく指導し職員間の信望も厚いこと、右職員の交通事事を契機として高知県下の全線路職員は飲酒運転はしないと強力に誓い合つており、特別詮議の上申が認められれば、公社の安全管理施策面にも大いに反映されるものと期待される、という点にあつた。

次に、脇町電報電話局の職員(昭和二一年八月一五日生)は当時同局線路宅内課に所属していたが、昭和四二年八月三日午前零時四〇分頃軽四輪自動車を運転し徳島県麻植郡鴨島町内原付近国道を進行中、自車を国道左側の田圃下に転落させて電柱に衝突させ、同乗者に対し左眼失明の外人院加療約二ケ月を要した頭部外傷、腰椎圧迫骨折などの傷害を負わせる交通事故を惹起したが、その原因は、右職員が当時眠気を催したにもかかわらず運転を続けたことによるものであつた。同人の受けた刑事裁判は業務上過失傷害罪により禁錮四月執行猶予二年であつた。公社は本件についても特別詮議の上申をし、総裁による身分の存続が承認され、その結果四国電気通信局長は、昭和四三年一〇月四日同人を規則第五九条第七号に該当するとして戒告の懲戒処分に付した。本件における特別詮議上申の特別の事情は、要するに、右事故は個人の車両を勤務時間外に運転中惹起したものであり公社義務と直接関係がないこと、右車両の運転は友人である被害者の要請により己むを得ず同人にかわつて行なつたもので、改悛の情顕著であり、被害者との示談を了していること、同人の勤務成績はきわめて優秀であり、職員間の信望も厚く、非常に優秀な若手職員として将来を嘱望されていることなどであつた。

以上の各事実が疎明され、他に右事実を左右するに足る疎明はない。

(ロ) 次に、全国の処分例、なかでも飲酒運転により交通事故を起し禁錮刑以上の刑に処せられた事例(別紙(三)参照)についてみるに、証人西田良通の証言により真正に成立したと認める疎乙第六〇号証および右証言によれば、昭和四一年一月から昭和四五年九月までの間に右のような事例が本件を入れて一三件あり、そのうち分限免職処分を受けた事例が本件を含めて二件(別紙(三)の事例15・18・15が本件である)、懲戒免職処分を受けた事例が三件(同6・9・28)、辞職承認の事例が七件(同12・14・17・21・27・29)、身分の存続が認められた事例が一件(同11、これは前記高知の事例である。)、未措置の事例が一件(同22)となつている。そして、右の事例18の場合は、昭和四四年四月一一日勤務時間外に飲酒運転のうえ軽トラックを運転中、自転車をはね、全治四〇日の傷害を負わせたまま逃走したもので、昭和四五年四月一日福岡高等裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役六月執行猶予二年の判決を受け、同6の場合は、昭和四一年九月一七日勤務時間外に飲酒のうえ自家用車を運転し、歩行者をはね瀕死の重傷を負わせて逃走したもので、昭和四二年二月六日札幌地方裁判所で前同罪により懲役一年および罰金五、〇〇〇円の判決を受け、同9の場合は、同年九月六日勤務時間中に飲酒のうえ、勤務終了後公社車両を無断で持ち出し、横断歩道を横断中の歩行者二名をはねて傷害を負わせたもので、昭和四三年二月九日名古屋地方裁判所で前同罪により懲役一〇月の判決を受け、同28の場合は、昭和四四年一二月二七日勤務時間外に飲酒のうえ普通乗用車を運転中、国道上で歩行者に衝突死亡させて逃走したもので、昭和四五年三月一六日福岡地方裁判所行橋支部で業務上過失致死および道路交通法違反の罪により禁錮一年の判決を受けたものである。また、同12の場合は、昭和四二年一二月二三日勤務時間外に飲酒のうえ私用車を運転し、工事現場の路上で工事用トレーラーに衝突し同乗者を死亡させたもので、昭和四三年六月二五日静岡地方裁判所浜松支部で前同罪により禁錮一年執行猶予三年の判決を受け、同14の場合は、同年九月四日勤務時間外に飲酒のうえ自己の乗用車を運転中、交差点で右折車に衝突し相手に加療一一ケ月の傷害を負わせたもので、昭和四五年二月二六日仙台高等裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により禁錮六月執行猶予三年の判決を受け、同17の場合は、昭和四三年一二月二二八日勤務時間外に飲酒のうえ無免許(失効)で自家用車を運転中、対面進行してきた自転車に接触し相手に五ケ月の傷害を負わせたもので、昭和四五年三月四日奈良地方裁判所で前同罪により懲役六月執行猶予二年の判決を受け(控訴中)、同21の場合は、昭和四四年八月二一日飲酒のうえ自家用車を運転して帰宅中、交通取締中の警察官をはね、さらにハイヤーに衝突し、運転手・乗客に傷害を負わせたもので、昭和四五年二月一六日東京地方裁判所で前同罪により懲役六月の判決を受け、同27の場合は、昭和四四年一二月二三日勤務時間外に飲酒のうえ軽四輪車を運転し、交差点で信号待ちのため停止中の普通自動車に追突し、運転者に加療約三ケ月の傷害を負わせたもので、昭和四五年五月一五日東京地方裁判所八王子支部で前同罪により懲役六月の判決を受け(控訴中)、同29の場合は、同年一月一三日勤務時間外に飲酒のうえ軽四輪貨物自動車を運転中、対向車線に進入して対向車と衝突し同乗者に加療二週間の傷害を負わせたもので、同年七月三〇日山口地方裁判所で前同罪により懲役五月執行猶予三年の判決を受けた(以上いずれも昭和四五年九月一四日現在のものである。)。

以上の事実が疎明され、他に右事実を左右するに足る疎明はない。

(4)  以上の事例を本件と比較してみるに、まず高知の事例は、酒酔いの程度において、急制動も意に任せなかつたというのであるから、本件とは比較にならない程度に酔つていたことは明らかで、その過失もより大であり、しかも時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で進行していたのであり、その運転行為の危険性は極めて大きい。また被害程度も全治約八ケ月を要したのであり、本件より重い。すなわち、全体的にみて本件よりはるかに悪質である。

従つて、刑も本件が禁錮六月執行猶予二年であるのに対し、高知の例は禁錮一〇月執行猶予三年となつている。にもかかかわらず、高知の事例がいわゆる特別詮議が認められたうえ、減給一月(懲戒処分)にとどまつた。次に、脇町の事例は、飲酒運転でない点において差異はあるが、居眠り運転であつて危険性においては大差はなく、被害程度は左眼を失明させ、約二ケ月の入院加療を要する傷害を負わせているから本件よりはるかに重大というべきである。受けた刑は禁錮四月執行猶予二年。これも、特別詮議が認められたうえ、戒告(懲戒処分)に処せられたにすぎない。

また、全国例を検討すると、分限ないし懲戒処分により公社から身分を排除された四事例(事例18・6・9・28、本件を除く。)は、懲役ないし禁錮刑の実刑であるか執行猶予でも禁錮刑でなく懲役刑であり、いずれも本件より刑ははるかに重く、事案もはるかに悪質である。しかも、公社の懲戒規程第一六条第一項によれば、免職に該当すると認められる場合は辞職を承認することはできない旨定められているにもかかわらず、公社においては、右の場合であつても本人より辞職の承認の申出がなされれば、辞職を承認する取扱いがなされており、全体的に寛大な点が窺われ、事実前記認定のように懲役の実刑判決を受けた場合(同21・27)も辞職が承認されているのであり、また飲酒運転を伴なわないで交通事故を起こし禁錮刑に処せられた事例中本件と同程度ないし本件より重い刑を受けたものは、辞職を承認されたものは別として、いずれも身分の存続が承認されて本件よりはるかに軽い処分しか受けていないことも明らかである(同2・3・7・8・10・13・16・19・23、以上の事実は、前掲疎乙第六〇号証、証人西田良通の証言社よつて疎明される。)

以上の点を彼此綜合して本件の場合をみると、本件免職処分は他に比して、特に四国管内の例と比べると、著しく重いことが明白で、このことは何人も争う余地のないところであると考えられる(分限処分を懲役処分と同一線上において比較して考えることは一見非論理的ではあるが、結果としては妥当であると考える)。しかして、当時交通事故に対する世評、社会的評価が次第にきびしくなつている点を考慮にいれるとしても、右二例の懲戒処分が著しく軽きに失し妥当性を欠くとも言い難い。被申請人は、申請人について特別詮議の上申をしなかつた理由として、高知の職員について特別詮議の上申をした際、今後は飲酒運転のうえ交通事故を惹起した場合には一切特別詮議を認めないとの公社の方針が示されていたためであると主張するが、右のような方針が確立したと認めるに足る決定的な疎明はない。成立に争いない疎乙第五〇号証によれば、公社職員局長は四国電気通信局長宛に「禁錮刑に処せられた職員の身分措置について(依命指示)」(昭和四三年一一月五日付)と題する指示をなし、これよると「貴局管内においては、今後このような事故を防止するために、飲酒運転の禁止に関する指示を一層強化されたい」との文言も見受けられるが、これは本件事故後のものであるし、前記方針の確立と認めること自体文理上甚だ困難である。また疎乙第一八号証による管内通達「飲酒運転の絶滅について」の厳正処分警告も、本件については事後的のものであり、文言自体も必らずしも前記主張を裏付けるものとは認め難い。また、高知、脇町の二例において特別詮議上申の理由とした同人らの日頃の勤務成績等も、この種上申によく見受けられる形式的な賞揚の域を多く出ないと認められ、申請人をしかくこれらの者と区別すべき理由とも受け取れない。

以上、要するに、本件免職処分(正確には、身分存続の上申及びその承認をしなかつたこと)は「予想に比し著しく重い」というのが率直な感じであり、現に従来の運用例に比しても際立つて厳格で、申請人が本件処分を組合活動に対する報復と受け取つたのは(同人の供述)、かえりみて他を言うとのしりを免れないし、その真偽のほども軽々に速断し難いところではあるが、それはそれとして、結局は以上のような点に起因する心情反応として首肯できる点がある。

(5)  しかして、以上の不均衡は、(2)で説示したとおり、およそ免職処分が当該特別権力関係から排除する決定的な効果を伴なうものである点に思いを至すと、もはや当、不当の域を越えて、人事に関する処分またはその運用上著しく相当性を欠くもので、結局本件処分には、その合理的な裁量の範囲を逸脱した違法が存するいわざるをえない。被申請人が従来から職員に交通安全を指導していたことはその提出した疎明資料によつて認められるし、本件や他の二件等を契機として爾後一層の監督指導の強化を図つたこと自体も、その企業の性質や立場上十分理解できるところではある。また、一般に近時交通事犯が自然犯、道徳犯化し、事件に対する社会的評価も厳しくなつている折から、これに対する社内の処分もこれを反映して厳格になつていくことも一般論としては当然で、この限りにおいては古い前例を漫然探し出してこれと比較し、当該処分の相当性を云々することは当を得ないことであることも多言を要しない。しかし、以上の諸点を考慮しても、本件の場合はその比較例の内容、日時の接近等に照らし、また、その他一般的な従来からの公社の人事管理の運用情況等にも照らし、なお、これを違法といわねばならない。

そうすると、申請人の本件処分の違法無効をいう主張は爾余の判断をなすまでもなく理由がある。

三、〈証拠〉によれば、申請人は本件免職処分当時毎月五日限り一ケ月金三〇、五八七円の平均賃金を得ていたことが疎明せられる(疎甲第二号証によれば、年間収入を平均した一カ月手取りはこれをやや上廻ることが窺われるがこれは臨時手当を含むものであり、一カ月の定収入としては前記金額を相当とする)。従つて、申請人は本件免職処分がなかつたならば引き続いて被申請公社に勤務し毎月五日に少なくとも右平均賃金相当額の給料を受け得たものであるところ、被申請人が申請人の従前の地位を認めず、賃金の支払いもしていないことは明らかである。そうすると、申請人は被申請人に対し前記認定額の給料の支払いを求める権利がある。しかして、申請人本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、申請人は妻と子二人を有する賃金労働者であつて、被申請人から支給を受ける賃金を資源としてその生計を維持しているものであることが疎明せられ、他に特段の資産を有するとは認められないから、申請人は前記給料の仮り払いを受けなければその生活に回復しがたい損害害を蒙る、と認めることができる。成立に争いのない疎乙第五六号証および申請人本人尋問の結果によれば、申請人は昭和四四年八月頃から臨時雇いとして徳島市内の建設ないし造園会社に雇われ日給金一、五〇〇ないし一、八〇〇円の賃金を得ていたことおよび妻富士子は本件免職処分当時より今日まで徳島電報電話局に交換手として勤務し、同人の昭和四三年度における年収(給与所得控除後の金額)は金三八四、八〇〇円であることが疎明せられるが、右事実だけで本件保全の必要性を否定することはできない。また、申請人の実父が多年公社に勤務した上昭和四四年五月定年退職し、退職金を得たことも右判断を左右するような事情とはいえない。

四、よつて、本件仮処分申請は叙上説示の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。(畑郁夫 葛原忠知 久保田徹)

(別紙略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例